バイオエタノール燃料のCO2削減効果に関する生態リスクCOEの議論

 compiled by H. Matsuda

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Date: Thu, 28 Jun 2007 14:09:44 +0900
すでにご存知のことと思いますが,先ごろ,スイス連邦素材試験所(EMPA)から,「バイオ燃料と化石燃料の環境負荷を検討した結果,食物栽培によるバイオ燃料は,二酸化炭素の排出量は化石燃料よりも低いが,肥料使用・土壌酸化・植物の多様性減少などの生態学的被害は大きい」とする報告書が公表されました.
ニュース↓http://www.empa.ch/plugin/template/empa/3/60542/---/l=2(報告書自体はブロックがかかって見られませんでした)
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Date: Thu, 28 Jun 2007 18:47:30 +0900
 バイオエタノールについては、かなり色々な見積もりがあり、「エネルギー収支」と「CO2削減量」に限ってみると、石油を燃すのと大差ないという見方が強いと思います(A. E. Farrell, et al., "Ethanol Can Contribute to Energy and Environmental Goals," Science, 311, 506-508 (2006))。セルロースから作るエタノールなら結構良いという見積もりはあります。従って、生態学的被害を考えたときにメリットがないという報告は妥当と思います。これは、バイオディーゼルにも言えるようです。(伊藤公紀)

Date: Thu, 28 Jun 2007 19:48:56 +0900
ざっと情報を探して見たところ、ご参考になるかどうかわかりませんが、Scienceに記事を見つけました。耕作地でバイオマス燃料素材を栽培するよりも、自然草地を利用した方が、CO2収支的にも生物多様性へのインパクトという点からも好ましいという話です (たぶん)。
Carbon-Negative Biofuels from Low-Input High-Diversity Grassland Biomass David Tilman, Jason Hill, Clarence Lehman Science 8 December 2006:Vol. 314. no. 5805, pp. 1598 - 1600 http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/sci;314/5805/1598 (酒井暁子)

Date: Fri, 29 Jun 2007 07:26:40 +0900
 バイオ燃料の問題点の指摘,多岐にわたっており,このCOEの有効性を感じます.土壌の立場からつぎの点を指摘します.
 農業はほとんどの場合土壌から炭素が二酸化炭素として大気に放出され,施肥起源の窒素が亜酸化窒素となる場合も多いようです.したがって,農地からの温暖化効果ガスの評価が必要です.おそらく,この点は報告書で検討されているのだと思います.
 さらに,収穫を高め,維持するために施肥が必要です.施肥により土壌が「酸性化」しますから,石灰で矯正をしています(「土壌酸化」という用語はおかしいです).過剰な施肥は水系を富栄養化させます.燃料としては窒素やリンは不要ですが,植物である以上,体に窒素やリンを含みます.燃焼により窒素は酸化物として大気汚染を引き起こし,やがて生態系を富栄養化させます.リンはあまりたくさん利用できない資源ですから,大切にしたいのですが,燃焼で塵となっていると思います.こういう理由から,カーボンニュートラルは間違いですし,環境負荷も大きいと思います.では森林はどうかというと,10年程度の単伐期では農地と同様な問題がありますが,長期の間隔で伐採すると施肥は不要(風化と空からの養分がある)で,伐採にともなう侵食を防ぐことができれば,森林が成立している期間は他の生物のすみかを提供するという点で,問題が少ないと思います.伐採にともなう土壌炭素の減少は現在盛んに調査されていますが,やはり生じますから,正しく評価していく必要があります.報告書で書かれている多様性の減少は熱帯林をアブラヤシに転換することを指していると思います.アブラヤシは多年生の植物なので,一年生の植物より熱帯での土地利用としてすぐれていると思います.熱帯の人々の経済のためにある程度必要と思いますが,大規模開発は大きな問題です.東大出の女優が「環境に優しい」とアブラヤシの写真の前で洗剤の宣伝をしていると聞きました.知性のなさにあきれています.
 最後に,現在の規模の移動用燃料を確保することはバイオ燃料では無理ですから,たとえば,屋久島での水素利用のように地域にあった多様な利用を検討すること,燃費をよくすることのほうが「温暖化」対策には有効だと思います.(金子信博)

Date: Fri, 29 Jun 2007 01:24:19 +0900
 伊藤先生がコメントのなかでご指摘の通り、セルロース起源と、食物栽培起源によって評価は変わると思います。「食物栽培によるバイオ燃料は,・・・・・肥料使用・土壌酸化・植物の多様性減少などの生態学的被害は大きい」という主張は、多くの識者・団体によってなされているようです。カーボン・ニュートラルという仮定が怪しいばかりでなく、さまざまな外部不経済が生じていることが問題とされているのです。
 私は個人的には、何と何とをどのように比較するのか、その仮定の置き方によってYes、No両面から議論が可能となるのではないかと考えています。生産段階から流通、加工、製造、最終消費の全プロセスを対象とするLCA分析こそが必要だと思いますが、わが国ではまだ本格的な分析はなされていないように思います。
 なお、ご参考になるかどうか自信はありませんが、先日霞ヶ関のイイノホールにて、レスターブラウン氏を招いた講演、そしてブラウン氏との討論会が開かれました。経済分野からは唯一、小生がパネリストの一人として招かれ、討論に参加しました。主催は(独)農業環境技術研究所ですが、そのときの記録はすべて研究所のホームページで公開されています。http://www.niaes.affrc.go.jp/関連する記録を添付しました。
 私は、 国内では〔食物栽培からのバイオ燃料について〕食料自給率の向上の方が、エネルギー自給率向上よりも優先すべきではないか、そして、 とくにアジア、アフリカ、南米における生態系破壊というリスク、途上国の貧困者から食料を奪うというリスクは大きな社会コストを伴っていることを忘れるべきでない、という点を指摘しました。添付ファイルをご参照していただければ幸いです。
 お問い合わせに対する直接的な回答にはなっていませんが、ご参考にしていただければ幸いです。(嘉田良平)

Date: Fri, 29 Jun 2007 09:20:46 +0900
嘉田さんのパワーポイントはわかりやすいと思いました.またバイオ燃料自体の多様性についてふれていますが,同感です.
1.一方的に有害と決めつけるのも,一方的にCO2対策やエネルギー対策の決定的な解決策と決めつけるのも,良くないと思う
2.「バイオ燃料」とひとまとめにして議論しない方がよさそう.サトウキビの廃棄物利用と,畑のトウモロコシ,里山の雑木などは別に評価する必要がある
3.それぞれについて自然(多様性など)への影響を評価する必要がある
4.それぞれについて農村へのインパクト(地域のひとの生活)を評価する必要がある
5.それぞれについて世界へのインパクト(オイルマネー対策,テロ対策も?)を評価する必要がある
6.それぞれについて投入資源量と回収資源量の関係,CO2収支も評価する必要がある.
 佐土原先生によると,里山の植物質の燃料は体積当たりの熱量が小さいので運搬コストがかかるとのこと.里山での木材・木炭発電のアイデアは昔からあるが大きな流れになっていない.それと比べる必要もありそう.
7.利用可能性は,量的にみて十分なのか?
 そもそも畑や森林の光合成は昔からずっと続いてきているのに,それでもCO2が増加し続けているので,植物の吸収量では化石燃料を代替えしきれないのでは? (生態的フットプリントでも,化石燃料のCO2を森林に吸収させると陸地面積を超えてしまう.どんな森林を仮定しているか不明だが,代替えが量的に難しいことを示唆すると思う)
 国連ミレニアムアセスメント流の,既知の情報を集約し,推進側にも反対側にも中立な,現時点での評価を与えるタイプのアセスメントを,国連関係の機関(たぶん)がバイオ燃料に対してもやっていて,結果が出ていたように思います(所在不明,数年前かも).
 たしか,熱帯林の生物多様性などにはネガティブな面も大きいが,農村などでは生活向上に寄与するプラスの面もあり,環境に良くないタイプのバイオ燃料を流通させないために世界的な評価・認証制度の導入が不可欠,というような結論だったように記憶しています.
 これからしばらくは,多様なエネルギーを使う社会になるのかな,という気がします.化石燃料と他のエネルギーの間でシーソーが続いて,バイオ燃料も,その中の選択肢として,ある程度存在し続けるのではないか,とも思います.
 今回は世界の燃料市場と食料市場の間に太いパイプができて(食料→燃料のパイプは太いが燃料→食料は細い?),市場メカニズムに従って変換されるシステムができた,というのが重要なポイントかもしれません.
 このCOEで扱うのであれば,バイオ燃料の多面的な評価・認証制度を設計できれば良いのかもしれません.(小池文人)

6月29日, 午後6:46
私の感想ですが、既にバイオ燃料が産業化してから問題点が指摘されるという展開は、フロン等の場-合と変わりないように思います。「環境技術」であったはずのバイオ燃料が反対の効果を生むに至った理由はどこにあったのかという解析が必要でしょう。(IPCC-第四次報告書にも、バイオエタノールが森林破壊につながるという指摘はないようです。これは、想像力不足の問題なのか、あるいはまた意識的な無視だったのでしょ-うか。) (伊藤公紀 )