平成19年度研究拠点形成費等補助金 拠点形成実績報告書
開始年度H19年度(環境学)

アジア視点の国際生態リスクマネジメント

横浜国立大学・松田裕之

教育研究拠点形成実績の概要
 アジア発展途上国等の生態リスクの適切な管理に貢献するため、@国連ミレニアム生態系評価(MA)にアジア視点を加えた国際的なリスク管理の理念・基本手法・制度を提示する準備として、昨年度は2010年生物多様性条約締約国会議に向けた国内の連携体制を構築することを目的とし、横浜国立大学(横浜国大)と国立環境研究所との包括連携を推進し、横浜国大は国立環境研究所との包括連携を推進し、新たに横浜国大と(財)地球環境戦略研究機構(IGES)との包括連携協定を結び、共同で日本植生誌(至文堂)のデータベース化を進めた。国連大学との連携を強化し、同高等研究所が進める里山里海サブグローバル評価への協力を進めた。国連大学との連携を強化し、同高等研究所が進める里山里海サブグローバル評価への協力を進めた。
 Aアジア等の生態系機能を調査・解析して外来生物管理を含めた具体的な順応的リスク管理手法を提示するため、アライグマ、ツボカビ病等、外来種分布拡大予測システムの取り組み(朝日新聞1/15付1面で報道)、マルハナバチに関する外来種国際ワークショップ (2/25-26)、K.Shea博士の公開講演会(10/25)を開催した(Science誌に外来クワガタ輸入問題318:No.25紹介)。B農薬・肥料・有害物質管理など具体的実践的なアジア途上国の生態系サービスのリスク管理手法を提案するために、中国中山大学のおける第4回中日環境管理セミナー(6/23)、アジア農業と食糧安保にかかわる国際シンポジウム(2/23)を開催した。C基礎研究、事例応用研究、社会制度提案の3者を繋げる研究者・行政・企業・市民のネットワークを国際的に構築するため、上記シンポジウムや6回の公開講演会を開催し、横浜国大で3名、国立環境研究所で3名(うち、外国人として韓国から1名ずつ)のCOEフェロー(ポスドク)を採用し、すでに1名が韓国の常勤研究者として、および2名がJSPS特別研究員として4月から転出した。15名のCOEリサーチアシスタントを雇用し、学会の企画集会や公開講演会の若手による企画を支援するとともにアメリカ(サンアントニオ)での国際学会派遣支援などを行った。

教育研究拠点形成に係る具体的な成果
 理念・方法論教育研究グループ(G1)では、教科書リスク学入門」(岩波書店全5巻、益永が共同編者と第5巻編者)および「生態リスク学入門」(松田、共立出版)を出版し、21世紀COEの成果である「生態系サービスと人類の将来」(国連ミレニアム生態系評価総合報告書の翻訳)を用いた講義(阪大)や講演会を開催した。予防原則と順応的管理に基づく環境管理が決められた経緯と問題点としてIPCC第4次報告、バイオ燃料と欧州ウナギ取引問題などを取り上げ、NHKクローズアップ現代(7/24、松田裕之)、テレビ朝日の朝まで生テレビ(1/25、伊藤公紀、江守正多)の生出演、朝日新聞論壇への寄稿(7/31、立川賢一)など生態リスク管理理念の普及に努めた。これらの活動の詳細は本COE公式HP(http://gcoe.eis.ynu.ac.jp/07jisseki.html及び2008年3月までのCOE更新記録)に掲載されている。
 生態系機能教育研究グループ(G2)では、教科書「土壌生態学入門」(金子、東海大出版)を出版し、アジアでは中国の生物多様性国家戦略紹介(He Juemei氏、2/1)の公開講演会を開催し、ASEAN沿岸環境保全会議(バンコク、11/12-13)などの国際会議で招待講演し、ユネスコMAB(人と生物圏)東・東南アジア地域国際会議(11/8-12中国貴州)に日本事務局として参加し、台湾国家公園緑地会議(台北、2/20)とPew海洋保全年次会議(モロ湾12/1)で招待講演し、知床世界遺産管理計画策定、尾瀬国立公園設立に貢献した。また、生態系回復力の国際ネットワークのため数理生物学会シンポジウムを企画した(サンノゼ、7/31-8/3)。丹沢では水質・水量など流域圏管理のための空間情報基盤のプロトタイプを地元自治体、NPO等と連携して構築した。
 生態系サービス教育研究グループ(G3)では、米国レッドランズ大学、清華大学などの講演者を招いた国際シンポジウム(10/20)を開催して、地理情報システム(GIS)等の知的情報基盤に関する米国レッドランズ大学、国連大学(UNU)との連携を強化し、化学物質リスク管理についてはK.S.Kumar博士の公開講演会(9/18)を開催し、農業生産システムについてはアジア農業と食糧安保にかかわる国際シンポジウム(2/23)ならびに農林水産政策研究所と共催で農生態学に関する公開講演会(S.Gliessman教授、日英同時通訳、3/18)を開催した。外来種リスクシンポジウム報告書(Koike et al. 2006, IUCN)の普及に努め、国連関係書籍販売店でベストセラー3位になった。
 全体として、生態学会では「日本国土の超長期ビジョンとしての中山間地問題」「外来生物法制定5年後の問題点と分布拡大予測」などのシンポジウム等を若手も含めて多数企画し、延べ1000名以上の参加者と議論した。水環境学会、水産学会などでも生態リスク管理の視点からの新たな学問の潮流を創造しつつある。